東京地方裁判所 平成4年(ケ)1039号 決定 1992年4月21日
債権者 王子信用金庫
代表者代表理事 大前孝治
債権者代理人弁護士 北原雄二
債務者 株式会社日本消費サービス会
代表者代表取締役 山下穣司
所有者 山下穣司
株式会社宇佐美工務店
代表者代表取締役 宇佐美喜一
主文
債権者の申立により、上記請求債権の弁済に充てるため、別紙担保権目録≪省略≫記載の抵当権に基づき、別紙目録≪省略≫記載の不動産について、担保権の実行としての競売手続を開始し、債権者のためにこれを差し押さえる。
理由
1 申立債権者の本件申立は、抵当権実行の要件を備えているので、主文のとおり決定する。
2 本件土地に関する、第三取得者増田譲次に対する抵当権実行通知の有効性につき、以下付言する。
本件記録により認められる事実は、次のとおりである。
申立債権者は、平成四年一月一〇日、本件土地につき所有権移転請求権仮登記を有する増田譲次に対して、抵当権を実行する旨の通知を配達証明付内容証明郵便でした。同郵便の配達の際増田は不在であったため、郵便局の職員はこれを郵便局で保管している旨記載した不在配達通知書を差し置いたうえ、郵便局において保管していたが、七日間の留置期間が経過したので、同月二〇日、差出人である申立債権者代理人弁護士北原雄二に返却した。増田は、現在に至るまで滌除の意思表示をしていない(なお、第三取得者等は仮登記を本登記にしなければ、滌除をなしえないが、増田は平成四年三月二五日現在本登記にしていない。)。
3 そこで、上記の抵当権実行通知の効力の有無について検討する。
抵当不動産の第三取得者等は、抵当権を滌除する権利を有し、抵当権者のする抵当権の実行通知はこの滌除権の行使期間を制限する効力を発生させるものであるが、抵当権者に対し、一般の意思表示の場合と同様に、通知の到達の事実を要件とし、その立証の負担を負わせるのは、抵当権者を不当に不利益に扱うものであり、公平の観点からみて許容することはできない。
すなわち、抵当権者に対し、通知の到達の事実を要件とし、その立証の負担を負わせると、本件のように配達の際不在である場合、抵当権者は、再度通知をしなければならないという手続上の負担を負わされ、結果として迅速な抵当権実行を妨げられるという不利益を被ることになる。
これに対し、第三取得者の有する滌除権は、その内容が自己の利益を伸張することを目的とするものであって、これを行使する機会は、抵当権実行通知を受ける前から与えられており、上記の実行通知は単に行使の期間を制限するに過ぎない。
そして、第三取得者等は、不在中に配達されたにせよ、抵当権者からの内容証明郵便を受け取りに行くについて一般的に障害があるとは考えられないうえ、郵便の差出人として抵当権者の表示のある不在配達通知書(集配郵便局郵便取扱規程第一六一条)が差し置かれることにより、その郵便物が抵当権者からの連絡であることを推測することができる。
そうであれば、第三取得者としては、滌除権行使について十分な機会が与えられているものというべきであり、第三取得者がわずかな労力を惜しんで郵便物の受け取りに行かなかったことにより生じる結果を、何らの落度もない抵当権者に転嫁するようなことは、公平の見地からみて許容すべきでない。
以上のとおりであるから、抵当権者が第三取得者等の住所に宛てて内容証明郵便により抵当権実行通知を発したときは、その通知が通常到達すべかりし時に、通知の効力を生じるものと解するのが相当である。
したがって、本件の実行通知はそれが発せられた平成四年一月一〇日から数日のうちに効力を生じたものとみるべきであり、それから一か月内に滌除の意思表示がなかった事実を前提としてされた、本件の競売の申立は、適法である。
(裁判官 松丸伸一郎)